こんにちは、ゆりかです。
今回は、今村夏子さんの『あひる』を紹介するよ。
今村夏子さん
- 出身:広島県広島市
- 誕生日:1980年2月20日
- 代表作:『こちらあみ子』『むらさきスカートの女』
- 主な受賞歴:太宰治賞(2010年)三島由紀夫賞(2011年)河合隼雄物語賞(2017年)野間文芸新人賞(2017年)芥川龍之介賞(2019年)
- 経歴:29歳の時、職場で「明日、休んでください。」と言われ、帰宅途中に突然「小説を書こう!」と思い立ち、書き上げられた『あたらしい娘』が太宰治賞を受賞。同作を改題したのが『こちらあみ子』だそうです。
小説『あひる』
『あひる』は、2016年11月に初版発行された、短編小説です。
『あひる』には、3つの短編小説が収録されています。1ページあたりの文字量も少ないので、さくっと読みたい時におすすめ!
- あひる(60ページ)
- おばあちゃんの家(32ページ)
- 森の兄妹(43ページ)
『あひる』の内容
以下、ネタバレありです。
登場人物
- あひる:名前は’’のりたま’’
- わたし:実家暮らし/医療系の資格を取るために毎日勉強している
- お父さん:知り合いからあひるをもらっていくる
- お母さん:近所の子供達を快く迎え入れる
- 弟:市内のアパートで奥さんと暮らしている
- 深夜の少年:「家の鍵を忘れた」と深夜に訪ねてくる
【ネタバレあり】あらすじ
この物語は、お父さんが「あひる」をもらってくる所からはじまります。言ってみればただそれだけ。
のりたまがやってきた!
’’のりたま’’という名前は、前の飼い主がつけたもので、わたしは名前の由来を知りません。
あひるが家にやってきてから、近所の子供たちが頻繁に家を出入りするようになり、今まで静かだった家が突然賑やかになります。しかし、しばらくするとのりたまは餌を食べなくなり、元気もなくなってしまいます。お母さんは、神棚の前で1時間お祈りをしています。
それでも、のりたまは衰弱していき、お父さんが病院に連れて行きました。
次ののりたま
2週間が経ち、のりたまが帰ってきますが、そのあひるは明らかにのりたまではありせんでした。それでも両親や子供たちは「のりたまが帰ってきた!」と、入れ替わったのりたまには気がつきません。
元気になったのりたまですが、しばらくするとまた元気がなくなり、お父さんが病院い連れて行きます。そして10日後に、太ったのりたまが帰ってきます。
この頃、子供たちがのりたまの世話をする機会はぐっとへり、お父さんが買ってきたテレビゲームへと興味は移っていくのでした。
誕生日会
わたしは、カレーの良い匂いで目覚めました。
母はカレーの他にも、大量の唐揚げやポテトサラダ、巨大なケーキなどを用意しています。私がカレーを食べようとすると、
「これは誕生日会用だからね。ゆうべのおでん食べちゃって」
「誰の誕生日会?」
「えーと、名前忘れた。男の子と女の子。同じ誕生日の子が二人いるんだよ」
その日、私は夕方まで喫茶店で資格の勉強をし、家に帰ると、子供たちは一人も来ていませんでした。
少年
その日の夜遅く、「家の鍵を忘れたから探させてほしい」と、色白の少年が訪ねて来ます。両親と私で探しますが、結局鍵は見つからず、誕生日パーティー用のカレーとケーキをお腹いっぱい食べて帰りました。
少年が来た次の日、のりたまが死んでしまいます。
わたしは、のりたまに「ゆうべはありがとう」と声をかけ、両親にのりたまが死んでしまったことを伝えます。2人とも驚いた顔をしていましたが、のりたまのお気に入りだった畑に穴を掘り、皆で手を合わせました。
すると背後から三輪車に乗った女の子が近づいてきます。お母さんがこれは’’のりたまのお墓’’だと伝えると、女の子は「3匹ともここにるの?」の言いました。
その後、4匹目ののりたまは来ず、わたしはまた試験に落ちました。
弟
ある日の午後、部屋で昼寝をしていると、急に怒鳴り声が聞こえます。弟が、家の子供たちに向かって怒鳴っているのでした。両親とわたしは、3人で正座をさせられ、弟に長々と説教をされるのでした。
1時間ほどの説教が終わると、わたしは席を外すように言われ、弟は両親に赤ちゃんが誕生するという報告をします。
あれから、半年。
現在わたしの家は増築中で、工事が終われば弟一家が引っ越してくることになっています。
のりたまの小屋は工事が始まると同時に潰されました。庭にブランコを置くのだそうです。
『あひる』考察・解説
この先は、わたしが感じたままに『あひる』の考察・解説をします。
のりたま
この物語は、家にあひるが来た。それだけです。そんな些細な出来事をきっかけとして、家族の日常が少しずつ変化していく様子を描いています。
お父さんがもらってきたあひる’’のりたま’’は、しばらくすると病気になってしまいます。病院に行った後、戻ってきますが、二番目にきたあひるがのりたまなのか、新しく買ったあひるなのかは、明記されていません。
しかし、最初ののりたまと特徴が異なることから、二番目、三番目ののりたまは、新しく購入したあひるだと言えます。
父と母の変化
のりたまが来て、子供たちが集まるようになると、両親は喜んでもてなし、それがだんだんとエスカレートしていきます。
最初は、麦茶を沸かしておくくらいだったのが、最終的には子供たちが喜びそうなお菓子を選び、誕生日会のために大量の料理を用意するようになります。
まるで、子供達の世話をすることで自分たちの存在意義がある、と言うような強迫観念さえ感じられます。
深夜に訪れた少年
誰も来なかった誕生日会の当日、深夜に訪れた少年は誰なのか。
翌日、わたしがのりたまにお礼を言っていることから、少年はのりたまの霊だったのではないかと思います。色白で小柄+よく食べる少年=最初と二番目ののりたまの特徴と似ています。
わたし
『あひる』は3人称で書かれた小説ですが、一応’’わたし’’が主人公として物語が進んでいきます。3人称で書かれた小説は、書き手が必要なだけ情報を提供して、物語を進めていきますが、『あひる』では’’わたし’’に関する情報が圧倒的に少ないのが特徴です。
弟が20歳を過ぎている、ということから’’わたし’’は20代〜であることが分かりますが、大学生ではなく働いてもいません。毎日、部屋か喫茶店で医療系の資格を取るために勉強をしています。
のりたまを見に来た男の子が、2階のわたしの部屋を見て驚き、「人がいる!」という場面があります。家に人間がいるのは不自然なことではないはずなのに、これはまるで、’’わたし’’がいない存在であるかのようです。
物語後半、弟が家族に、子供が生まれることを報告する場面がありますが、何故かわたしには席を外させ、両親にだけ報告をするという描写があります。この場面からも、’’わたし’’の存在価値の小ささが窺えます。
依存するということ・他力本願
『あひる』に出てくる両親は、自分の生き方や幸せを、「宗教や他人」に依存していると言えます。
のりたまが病気になった時、お母さんは病気を調べたり、病院に連れて行ったりするのではなく、毎日お祈りばかりしています。また、のりたまに会いにくる子供達におもてなしをする=「自分たちは良いことをしている」、自分たちの幸せは子供達がいてこそだ、と思い込んでいるように感じます。
わたしに関しても、学校にも行かず働きもしません。しかし、毎日資格の勉強をする=「私は忙しい。頑張っている。生きるいいがある」と思うことで、自分を保っているのではないか、と考えました。
交換可能な存在
『あひる』で一番強いメッセージは、『交換可能な存在である』ということだと感じます。
のりたまが入れ替わっていることに気がついたのは、わたしと三輪車の女の子だけです。両親は、知っていて知らないふりをしています。他の子供達は気がついていませんが、見方によっては『のりたまじゃなくても’’あひる’’であれば何でも良かった』と考えることができます。
つまり、のりたまのパーソナリティーは関係ない、ということです。
サン=テグジュペリの「星の王子様」(赤いバラ)では、’’心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。
かんじんなことは、目に見えないんだよ。’’という名言があります。
『あひる』では、真逆の視点から同じ問題を定義しているのかと思いました。
まとめ
今村夏子さんの作品を読むのは、2作目でしたが、早くも3人称小説にハマりつつあります!
今まで読んだ作品は、短編ばかりですが、どれも「これは、どう意味かな?」「この行動には、どんな意味があるんだろう。」と、いちいち考えずにはいられません!!
ハッピーエンド!な物語ではなく、読み終わった後も、どこか心がざわざわしますが、文字数が少なくさくっと読めるので、気軽に短時間で読むにはおすすめの作品です。